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野生生物保護基本方針

岐阜県希少野生生物保護基本方針

(平成15年7月11日岐阜県告示427号)

<第一>希少野生生物の保護に関する基本構想

1野生生物保護の重要性

 野生生物は、人類の生存基盤である生態系の基本的構成要素であり、日光、大気、水、土とあいまって、物質循環やエネルギーの流れを担うとともに、その多様性により地球誕生以来の環境の変化に柔軟に適応しながら生態系のバランスを維持している。野生生物はまた、食料、衣料、医薬品等の資源として、学術研究、芸術、文化の対象として、さらに生活に潤いや安らぎをもたらす存在として、人類の豊かな生活に欠かすことのできない役割を果たしている。
 しかし、今日、様々な人間活動による圧迫に起因し、地球上ではかつてない速さで野生生物の種の絶滅が進行しており、多くの種が絶滅し、絶滅のおそれのある種が数多く生じている。種の絶滅は、その種から人類が享受することができる様々な恩恵を永久に消失させる。また、多くの種の絶滅による急激な多様性の低下は生態系のバランスを崩壊させるおそれもあり、人類の生存基盤そのものを危うくしかねない。現在と将来の人類の豊かな生活を確保するために、人為の影響による野生生物の種の絶滅の防止に取り組むことが求められている。
 野生生物の世界は、多様な構成要素から成り立っており、生物群集、個体群、種など生物相を構成する諸因子並びにそれらと物理的要因との相互関係の中で成立する生態系等様々な態様があり、この実態に即して野生生物の多様性を保護する必要があるが、なかでも種は、生物相、生態系を構成する基本単位であり、それぞれの種の特性、事情に応じて保護対策を進めることが、野生生物の保護を進める上で重要かつ効果的である。
 野生生物の種の保護の実施に当たっては、絶滅のおそれのある種であるか否かにかかわらず取り組むべきものであるが、絶滅のおそれのある希少な野生生物の種(以下「希少野生生物」という。)を保護し絶滅のおそれから守り、その種を象徴とする生態系の豊かさ、生息又は生育(以下「生息」という。)環境の多様性を守ることは極めて有効な手法であり、何よりも緊急に推進すべき課題である。

2岐阜県における野生生物の状況

 本県は本州のほぼ中央部に位置し、北には標高三千メートル以上の高峰を擁する北アルプスを始めとする山々が連なり、南は木曽川、長良川及び揖斐川の木曽三川にはぐくまれた濃尾平野から海抜ゼロメートルの輪中地帯に及び、太平洋と日本海の分水れいも有しており、海のない内陸県ではあるがまさに日本の縮図ともいえる全国でも有数の豊かで多彩な自然環境を有しており、県の鳥ライチョウや、わが国でもこの地方・地域にしか見られない野生生物を始めとした多種多様な野生生物が生息している。これらの野生生物は、本県の多様な生活様式や文化の源であり、次代に引き継ぐべき県民共通の貴重な財産である。しかしながら、「岐阜県の絶滅のおそれのある野生生物−岐阜県レッドデータブック−」で明らかなように、本県においても多くの野生生物に絶滅のおそれが生じている。
 このような状況下において、国は、平成四年に絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律を制定し、希少野生生物の保護を図っているが、ここで対象とされているのはごく一部の種であり、本県の貴重な財産である多様な野生生物を保護していくには十分ではない。また、わが国、さらには地球の生態系は各々の地域の生態系のつながりにより維持されており、各々の地域での保護がなければ希少野生生物の保護や生物多様性の保護は成し得ないことから、本県の実情に対応した、総合的、計画的かつきめの細かい施策を実施することが求められている。

3希少野生生物の保護の考え方

 以上のような認識に立ち、本県の希少野生生物の保護施策を推進するに当たっての基本的な考え方は、次のとおりである。

  1. 今日、野生生物の種を圧迫している主な要因は、人間の生活域の拡大等による生息地の減少又は生息環境の悪化、過度の捕獲・採取等であり、希少野生生物の保護を図るためには、これらの状況を改善することが必要である。このため、生物学的知見に基づき、特に保護を図るべき希少野生生物を明らかにし、その生きている個体の捕獲、採取、殺傷又は損傷(以下「捕獲等」という。)を原則として禁止し、その生息地における行為を規制し、違法に捕獲等された個体を譲渡しする行為を禁止するなどの措置を講ずるものとする。
  2. 希少野生生物を絶滅の危機から救うためには、圧迫要因を除去又は軽減するだけでなく、生物学的知見に基づき、その個体の生息に適した条件を積極的に整備し、個体数の維持・回復を図ることも必要となる。このため、その生息状況や生態的特性を考慮しつつ、その生息地において生息環境の維持・再生・整備、餌()条件の改善、移入種(外来種)の除去等の事業を推進する。また、個体数が極めて減少しその生息地での自然繁殖が困難な場合にあっては人工増殖等の事業も検討するものとする。
  3. 希少野生生物の保護施策は、生物学的知見に立脚しつつ、時機を失うことなく適切に実施される必要があるが、希少野生生物はその生態等未知の部分が多いため希少野生生物の保護施策の実施に必要な調査研究を積極的に推進するものとする。
  4. 以上の施策の立案と実行に当たっては、県民の理解と協力の下に、人と野生生物の共存を図りつつ推進する必要がある。このため、希少野生生物の保護に対する県民の理解を深めるための普及啓発を推進する。また、希少野生生物の保護は、行政のみならず各地域に生活する県民との協働によらなければ達成し得ない。そのため、県民と行政との協働が円滑に進められる体制づくりを推進するものとする。

<第二>指定希少野生生物の選定に関する基本的な事項

1指定希少野生生物については、本県における生息状況が、人為の影響によりその存続に支障を来す事情が生じていると判断される種(亜種又は変種がある種にあっては、その亜種又は変種とする。以下同じ。)で、以下のいずれかに該当するものを選定するものとする。

  1. 個体数が著しく少ないか、又は著しく減少しつつあり、その存続に支障を来す事情がある種
  2. 県内の主要な生息地が消滅しつつあることにより、その存続に支障を来す事情がある種
  3. 県内の生息地の生息環境が著しく悪化しつつあることにより、その存続に支障を来す事情がある種
  4. 生息地における過度の捕獲又は採取その他の事情により、その存続に支障を来す事情がある種

2指定希少野生生物の選定に当たっては、次の事情に留意するものとする。

  1. 移入種(外来種)及び本県にごくまれにしか渡来又は回遊しない種は、選定しないこと。
  2. 個体としての識別が容易な大きさ及び形態を有する種を選定すること。
  3. 県内において保護活動が現に行われ若しくは行われようとしている種又は商品価値が高く捕獲等の対象となりやすい種等規制的措置により効果的に保護対策が図られる種を優先的に選定するようにすること。
  4. わが国における主要な生息地が県内に存し、本県におけるその種の絶滅又は衰退がわが国におけるその種の絶滅又は衰退となる種等、本県の自然環境の特性を象徴するような種を優先的に選定するようにすること。
  5. 他法令により十分な個体の保護がなされている種は、指定希少野生生物保護区の指定又は保護整備事業の実施により保護対策が効果的に実施できるものを選定するようにすること。

<第三>指定希少野生生物の個体の取扱いに関する基本的な事項

  1. 個体の範囲
    指定希少野生生物の生きている個体には、卵及び種子を含むものとする。
  2. 個体の取扱いに関する規制
    1. 捕獲等の規制
      ア捕獲等の禁止
      指定希少野生生物の生きている個体の捕獲等については、その種の保護の重要性にかんがみ原則として、これを禁止するものとする。
      イ捕獲等の許可
       指定希少野生生物の生きている個体の捕獲等の許可は、学術研究、個体の生息状況の調査、人の生命又は身体への危害の予防、農林漁業に対する甚大な被害の防止及び個体の保護のための移動又は移植等一定の目的によるものを除き原則として許可しないものとする。なお、捕獲等した個体は、その捕獲等の目的に応じて適切に取り扱うものとし、必要に応じてその個体が生きている間は許可を受けた者に対して報告を求める等、個体の取扱い状況の把握に努めるものとする。
    2. 違法に捕獲等された個体の譲渡し等の規制
       捕獲等の規制に違反し違法に捕獲等された個体の譲渡し、譲受け、引渡し又は引取りは禁止する。なお、この場合においては個体のはく製、標本その他の加工品であって、種を容易に識別できるものを含めて規制の対象とするものとする。
  3. その他の個体の取扱いに関する事項
     指定希少野生生物の個体の所有者又は占有者は、その種の保護の重要性にかんがみ、その生息の条件を維持するなどその種の保護に配慮した適切な取扱いをするよう努めるものとする。

<第四>指定希少野生生物の個体の生息地の保護に関する基本的な事項

 希少野生生物の保護の基本は、その生息地における個体群の安定した存続を保障することである。このような見地から、指定希少野生生物の保護のためその個体の生息環境の保護を図る必要があると認めるときは、指定希少野生生物保護区を指定するものとする。

1指定希少野生生物保護区の指定方針

  1. 指定希少野生生物保護区の指定の方法
     指定希少野生生物保護区は、指定希少野生生物の個々の種ごとに指定するものとする。
  2. 指定希少野生生物保護区として指定する生息地の選定方針
     複数の生息地が存在する場合は、個体数、個体数密度、個体群の状況等からみてその種の個体が良好に生息している場所、植生、水質、条件等からみてその種の個体の生息環境が良好に維持されている場所及び生息地としての規模について総合的に検討し、指定希少野生生物保護区として優先的に指定すべき生息地を選定する。生息地が広域的に分散している種にあっては、主な分布域ごとに主要な生息地を指定希少野生生物保護区に指定するよう努めるものとする。
  3. 指定希少野生生物保護区の区域の範囲
     指定希少野生生物保護区の区域は、指定希少野生生物保護区の指定に係る種(以下「指定種」という。)の個体の生息地及び当該生息地に隣接する区域であって、そこでの各種行為により当該生息地の個体の生息に支障が生じることを防止するために一体的に保護を図るべき区域とするものとする。なお、鳥類など行動圏が広い動物の場合は、営巣地、重要な採()餌()地()等その種の個体の生息にとって重要な役割を果たしている区域及びその周辺の個体数密度又は個体が観察される頻度が相対的に高い区域とするものとする。
     また、区域の選定に当たっては、指定希少野生生物の分布の連続性、生態的な特性等について十分に配慮するものとする。
  4. 指定希少野生生物保護区において適用される各種の規制に係る指定の基本的な考え方
    ア岐阜県希少野生生物保護条例(平成十五年岐阜県条例第二十二号。以下「条例」という。)第二十条第一項第十号の知事が指定する野生生物の種については、食草等指定種の個体の生息にとって特に必要な野生生物を指定するものとする。
    イ条例第二十条第一項第十一号の知事が指定する湖沼又は湿原については、新たな汚水又は廃水の流入により、指定種の個体の生息に支障が生じるおそれがある湖沼又は湿原を指定するものとする。
    ウ条例第二十条第一項第十二号の知事が指定する生物については、現に指定種の個体を捕食又は殺傷し、、生息の場所を奪うことにより圧迫し、その他生息環境を悪化させ、若しくは指定種との交雑を進行させている生物又はそれらのおそれがある生物を指定するものとする。
    エ条例第二十条第一項第十三号の知事が指定する物質については、現に指定種の個体に直接危害を及ぼし、若しくはその個体の生息環境を悪化させている物質又はそれらのおそれがある物質を指定するものとする。
    オ条例第二十条第一項第十四号の知事が定める方法については、生息環境をかく乱し、繁殖・行動を妨害するなど現に指定種の個体の生息に支障を及ぼしている方法又はそのおそれがある方法を定めるものとする。

2立入制限地区の指定方針

 立入制限地区については、指定希少野生生物保護区の区域のうち、指定種の個体の生息環境を維持する上で、人の立入りを制限することが不可欠な区域を指定するものとする。なお、立入りを制限する期間は、地域の現状、指定種の生態的な特性等を考慮し指定種の保護のため必要な期間とするものとする。

3指定希少野生生物保護区の区域の保護に関する指針

 指定希少野生生物保護区の区域の保護に関する指針においては、指定種の個体の生息のために確保すべき条件とその維持のための環境管理の方法を明らかにするとともに、特に必要がある場合は環境管理において重要な行為許可基準等も併せて示すものとする。

4指定希少野生生物保護区等の指定に当たって留意すべき事項

 指定希少野生生物保護区及び立入制限地区等の指定に当たっては、関係者の所有権その他の財産権を尊重するとともに、農林水産業を営む者等住民の生活の安定及び福祉の維持向上に配慮し、地域の理解と協力が得られるよう適切に対処するものとし、指定希少野生生物保護区の指定にあっても原則として土地所有者等の同意を得るよう努めるものとする。また、県土の保全その他の公益との調整を図りつつ、その指定を行うものとする。

5その他の生息地の保護に関する事項

 指定希少野生生物の個体の生息地の所有者又は占有者並びに事業者等は、各種の土地利用や事業活動の実施に際し、希少野生生物の保護のための適切な配慮を講ずるよう努めるものとする。

<第五>保護整備事業に関する基本的な事項

  1. 保護整備事業の対象
     保護整備事業は、指定希少野生生物のうち、その個体数の維持又は回復を図るためには、その種を圧迫している要因を除去又は軽減するだけでなく、生物学的知見に基づき、地域の生態系の保全を前提として、その生息地の整備・再生等の事業を推進することが必要な種を対象として実施するものとする。
  2. 保護整備事業計画の内容
     保護整備事業の適正かつ効果的な実施に資するため、事業の目標、区域、内容等事業推進の基本的事項を実施区域及び対象とする種ごとに明らかにした保護整備事業計画を策定するものとする。当該計画においては、事業の目標として、維持又は回復すべき生息地の環境等を、また、事業の内容として、餌()条件、繁殖条件等の改善、森林、草地、水辺等生息地における生息環境の整備・再生等具体的に実施する事業を定めるとともに、対象種の個体の生息の状況の調査手法等を定めるものとする。また、必要に応じ飼育・栽培下での繁殖、生息地への再導入等の個体の増殖のための事業を定めるものとする。
  3. 保護整備事業計画の策定
     保護整備事業は、県及び市町村等行政並びに県民により組織される民間団体等(以下「県民等」という。)の、幅広い主体によって推進されなければならない。そのため保護整備事業計画の策定段階で野生生物保護支援員等の提案を受けるとともに、関係する野生生物保護推進員及び実施区域の市町村の意見を聴き、地域の実情、実施しようとする事業の実態に即した保護整備事業計画を策定するよう努めるものとする。
  4. 保護整備事業の実施に当たって留意すべき事項
     保護整備事業の実施に当たっては、対象種の個体の生息の状況を踏まえた生物学的知見を基盤とした判断に基づき、必要な対策を時機を失することなく、計画的に実施するよう努めるものとする。また、定期的な事業効果の評価を行い、生息の状況の動向に応じて事業内容を見直すとともに、必要に応じて幅広い主体が、適正な役割分担のもと協働して一つの事業を成し得る体制作りに努めるものとする。
     指定希少野生生物に対する既存の保護活動については、積極的に保護整備事業としての実施を促すものとし、既存の保護活動が指定希少野生生物及び指定希少野生生物保護区の指定により継続できなくなることがないよう配慮に努めるとともに、誤った保護活動がなされている場合にあっても、保護整備事業計画の策定、保護整備事業の認定を通じて是正が図られるよう配慮するものとする。

<第六>その他希少野生生物の保護に関する重要事項

  1. 調査研究の推進
     希少野生生物の保護施策を的確かつ効果的に推進するためには、何よりも生物学的知見を基盤とした判断が重要であり、希少野生生物の生息状況、生息地の状況の調査のほか、生態、保護整備手法その他施策の推進に必要な各分野の調査研究を推進するものとする。
  2. 各種事業の実施における配慮
     県は、県土の保全、地域の開発及び整備その他の事業で希少野生生物の生息環境に影響を及ぼすと認められる事業の実施に当たっては、希少野生生物の生息環境の保護に配慮するものとする。
  3. 県民の理解の促進と意識の高揚
     希少野生生物の保護施策の実効を期するためには、県民の保護への適切な配慮や協力が不可欠であり、希少野生生物の現状やその保護の重要性に関する県民の理解を促進し、自覚を高めるための普及啓発活動を積極的に推進するものとする。
     また、人と野生生物の共存の観点から、農林水産業が営まれる農地、森林等の地域が有する野生生物の生息環境としての機能を適切に評価し、その機能が十分発揮されるよう対処するものとする。
  4. 推進体制の整備
     希少野生生物の保護施策の推進に当たっては、県内の市町村との連携はもとより、国及び他の都道府県等との協力による取組が必要なものもあり、積極的な連携又は協力等を行うものとする。
     また、県の施策の推進に当たっては、県民、事業者、民間団体等との協働が不可欠である。このため、行政と県民等が協働して、調査、監視、指導等の取組を進めるための体制づくりに努めるものとする。
     併せて、県民等との協働には県民等の意見を把握するとともに、把握した意見を施策に反映させることが重要であり、連絡会議の設置等意見を集約し施策に反映させる体制づくりに努めるものとする。特に、野生生物保護推進員及び野生生物保護支援員等の制度を活用し、県の希少野生生物保護施策に関する意見を聴き、それを施策に反映するよう努めるものとする。
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